2026年7月21日
機械可読性の確保は喫緊の課題
2026年3月に「行政データにおける機械可読性に関するルール」が発表されました。デジタル庁が事務局を務める各府省庁DX推進連絡会議・デジタル社会推進会議幹事会による決定で、国の行政機関が公開するオープンデータに段階的に導入されます。
このルールは、行政データを利活用する際にかかっていたデータクレンジングコストを、社会全体で縮減していくためのガイドラインです。異なるデータセット間での結合や、AIやプログラムによる自動処理をスムーズに可能にすることを目指しています。
今回、デジタル庁は初めて、このガイドラインをシステムに自動判定させるためのコードをJSONとCSV形式でも公開しました。
二段構えのデータ標準化
行政データの機械可読化は、総理大臣が議長を務めるデジタル行財政改革会議が主導する、「データとAIが好循環を形成する社会の構築」という大きな戦略(Why)を、実装ルール(How)に落とし込んだ政府一丸の取組です。さらには、行政データの利活用推進の一環でもあります。この取組は、以下のように「二段構え」の構造をとっています。
- 総務省ルール(e-Stat等):国の重要な「統計データ」が対象。高度な正確性が求められる、いわばプロ仕様の厳しい特別ルール(2020年策定)。
- 政府共通ルール(一般的な行政データ):国が作成・公開するデータのうちテーブルデータ(表形式のデータ)が対象。AI 活用やデータ連携を実現するための基本的なルール(今回策定)。
段階的に引き上げる3つのレベル
ガイドラインは段階的にデータ品質の底上げを図るアプローチとなっており、機械可読性の品質を以下の3つのレベルで定義しています。
- レベル1:閲覧・転記が可能 表計算ソフト等での基本操作が機械的に可能な状態。「セルの結合をしない」「1セル1データ」「スペースや改行で体裁を整えない」などの基礎要件
- レベル2:集計・分析が可能 BIツール※等で前処理なしに自動集計ができる状態。「数値データに『円』などの文字列を含めない」「選択肢回答を標準化する」など、行をサンプル・列を変数として扱える統計データ形式。
※データの自動集計や可視化を行うためのツールのこと
- レベル3:連携・自動化が可能 プログラミング言語での自動取得や他データとの結合が可能な状態。「データは横持ちではなく縦持ち形式とする」「時間軸や地域コードを標準化する」など、API連携やAIモデルへの即座のデータ投入を見据えた要件
国のAI戦略と現場のギャップ
これらのルールが策定された背景には、行政DXの理想と現実の深刻な乖離があります。
高度なAIを導入する以前に、そもそも現場のデータ基盤が計算機に乗らないという現実があり、結果として現場のエンジニアが多大なデータクレンジング作業を強いられているというジレンマを抱えています。また、機械可読化のルールを課しても現場では守られないというルールの形骸化についての指摘もあります。
こういった課題に対応するため、今回、デジタル庁は単にJSONやCSV形式のルールを公開しただけでなく、ExcelやCSVのデータ品質を自動チェックする判定プログラムのサンプルまで公開しています。
「ルールをコードとしてシステムに読み込ませることで、データ整備の自動化がいかに簡単になるか、その効果を実際に体験してください」と、手軽に試せる「実験キット」を提供しているわけです。
なぜ「Rule as a Code」?
さて、ここからが本題です。
ガイドラインを自然言語とコードの「デジタルツイン」として公開し、外部システムに参照させるこのアプローチは、「Rules as Code(法令を機械が直接解釈できるコードとして実装する方法論)」と重なる部分があります。実際、総務省の「地方自治体におけるAIトランスフォーメーションに関する研究会」資料中で、デジタル庁がJSONやCSV形式のルールを公開したことを「Rules as Codeの取組」と紹介しています。
しかし、デジタル庁のウェブサイトでは、これが「Rule as a Code(ルールのコード化)」になっています。
プログラミングの「code」は不可算名詞(数えられない名詞)として扱われるため、原則として前に「a」をつけることも、複数形の「s」をつけて「codes」とすることもありません。「Rule as a Code」という表記はともするとスペルミスとみなされかねませんが、デジタル庁はなぜリスクをとってまで、あえてこれを選んだのでしょうか?
「Rules as Code」の元々の意図は、複雑な法律や規制を、デジタルシステムに実装しやすいように、立法の段階から自然言語とコードで併記していくプロセス変革です。法律をコード化する最大の障壁は、法解釈の権限が誰にあるのかという、三権分立の本質的な壁にあります。
一方で、今回の「セルを結合しない」といった行政データ仕様のルールには、法的な解釈の入り込む余地も、三権分立の壁もありません。これを「Rules as Code」と呼ぶことには違和感があったのかもしれませんし、行政データの標準化も機械で自動化できるという目指す方向性は同じであることから、その方向性へのメッセージとも考えられます。
メッセージだとすれば、中央からの単なるルールの押し付けを避け、現場の反発を和らげながら行政DXのビジョンに接続しようとする、日本的かつ間接的なアプローチが見て取れますが、あまりに婉曲的で「伝わる人にしか伝わらない」危うさもあります。
「Rules as Code」への布石
今回デジタル庁は「機械が読める形でルールを提供し、自動検証させる」という実践で「Rules as Code」を実感するための「安全な実験場」を作り出しました。これは行政のデータやサービスとデジタルシステムを接続させ、動的なデジタルインフラへと移行させる現実的で重要な第一歩となるはずです。
データエンジニアリング、とりわけこうした地道な努力と改善の積み重ねは極めて重要です。 だからこそ、なぜあえて単数形の「Rule as a Code」を採用したのか、その真の意図を堂々と説明してほしいと思います。
参考資料
- 行政データにおける機械可読性に関するルール(内閣官房)
- 行政データにおける機械可読性に関するルールをコード化する取組み(デジタル庁)
- 地方自治体におけるAIトランスフォーメーションに関する研究会
(第1回)(総務省) - デジタル行財政改革における行政データ利活用の取組について(デジタル行財政改革会議)
- 統計表における機械判読可能なデータの表記方法の統一ルールの策定(総務省)
- 行政データにおける機械可読性に関するルールのコード(JSON形式)(GitHub)
- 行政データにおける機械可読性に関するルールのコード(CSV形式)(GitHub)
- 「機械可読性ルールのコード化とその先にあるもの」note、2026年6月25日(hrkzz)
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